すすきのTOWN情報 2004.08.20発行.「山岸敬明の薄野放言 vol.2」
でゲストとして対談した内容を掲載致しました。

尚、掲載に際しまして、すすきのTOWN情報 (株)あるた出版 様より貴重な
データ提供を頂いております。
すすきのTOWN情報 2004.08.20 発行
http://www.susukino.gr.jp/

株式会社 あるた出版
札幌市中央区南3条西6丁目 南3条グランドビル3F
TEL:011−222−0088 FAX:011−222−7443


Yamagishi Noriaki
中国上海料理「kakazan」オーナーシェフ
「プロジェクト空」の代表として
飲食店プロデュースも精力的に行う

 Wakayama Shoufu
 書家/清酒ラベル、料理献立書、看板文字
 商品パッケージなど商用実績多数
 試行錯誤の中独自の新しい書を確立し
 異色の作家として注目を集めている。

--- まずはおふたりの出会いの話から ---

若山 
たまたま、前に山岸さんのやっていた「且座」(しゃざ)に行ったんですよ。「且座」という言葉が「ちょっと座っ
ていけば」とか「ちょっと寄ってけば」っていう意味でそれが気になったんですよね。それでどんなお店かなと思っ
て店に入ったら、食べている時に山岸さんが挨拶に来てくださって、料理の説明していただいたんです。料理も美味
しかったし、スタッフのサービスにも感動したので、後にカレンダー贈らせていただいたんですよ。
 

山岸 
初めて若山さんの作品に触れたのはその時に頂いたカレンダーで、それを見たときはやさしい印象でした
その後、毎日それを見てお調子こかないで自分を戒められるようなものにしたいからって、「食」という
字を書いてほしいお願いしたんです。「食」の文をいただいて最初に見たときは「食」の中の良いってい
う部分が目に見えて、おっかない字だな、怖いなと思っていました。自分でそういう風にお願いしたから
潜在意識なのかもしれないけど「お前ちゃんとしないと見ているぞ」って言っている目ん玉みたいに見え
たんですよ。でも最近は柔らかくて優しい「食っていいよなあ」って感じるあったかい字になっているん
ですよね。
若山
変わったかもしれないですね。字っていうのは生き物だから人の前に置いていっぱい見てもらうと、エネルギーが入
ってくるから。例えば箱にしまって大切に押入れとかにいれていると枯れてくるんですよ。この字が初めて山岸さん
に向けて気持ちを入れて書いたものですね。そして「怖かった」って言っていたけど、何種類も書いたうちの一番下
にいれていたあれを選んだのは山岸さんなんですよね。だから、何を選ぶかっていう部分も含めてのものなんです。
まあ当然その時の気持ちのありようだったり生き様だったりいろんなものでどの字を選ぶかが決まるし、心情によっ
て見方も然変わる。同じ字でも優しく感じる時もあるし、強く感じる時もある。それは今、その人が求めているもの
部分で出てきているんだと思います。だからさっき山岸さんがおしゃっていた「目に見えて怖かった」っていうのは
自分自身をこの字に目線を移して見ていたというか、自分に対する戒めなりを欲していた、自分を律しようという気
持ちの時だったんだと思うんですよ。

--- 若山さんの作品は既存の書の概念と違う部分もあると思うのですが ---

山岸
確かに「飛」っていう字を四つにぶった切って書いたりとかさ、書の世界では有り得ないことをする人ですね。昔か
らの書道の先生からはきっと「なんだあんなもの邪道だ」って言われるよね。

若山
この文字を表現するには何が一番大事なのかっていうことだけなんです。そうしたらこれは切っちゃったほうが早い
なとか、これは色つけたほうが伝わるなとかなってくるだけで。それと、常々個人の家に字がどうしてないんだろう
って思っていまして。普通の人が普通に、絵を飾るとか写真を飾るように字を飾ってもらう為にはどうしたらいいの
だろうという気持ちもあるんですよ。10代、20代の若い人たちにも興味を持ってもらってもっと身近に感じてほしい
し、だから部屋に書道額とか掛け軸は合わないなら、ピンクにしてしまった方がいいとか、黄色にしてしまった方が
いいとか自然に思うだけです。

山岸
若山さんには系列店の壁に書いていただいているんだけど、それはただの飾りじゃなくて、店の中に自然に馴染むと
思ってお願いしているんですよ。


若山

食との関わりでいえば、お酒のラベル書くにしても最初、ふっと開けてグラスに入れて飲んだ時と
それが空く時と2杯目入れた時って全部、味変わるじゃないですか。それを感じ取って書くんです
ね。そのお酒で墨をすってみたりしながら。メニューひとつ書くにしても、その料理を口にするの
が一番書きやすいし、それが駄目だったら出来たものを写真でもなんでもいいから、せめてものを
見る。そうしないとイメージが湧きづらい。 

山岸
やっかいなお願いすることもあるんですよ。「大鬧」(だいどう)の時は、自分の中でも新しいことを
したかったから、若山さんの字って絶対わかんないような字書いてくれって頼んだんです。そしたら壁
に気を入れてくれて、ちゃんとそれが完壁にピターっと決まってね。

若山 
それはオレの気が入っているんじゃなくて、山岸さんとかスタッフの人とかその中で活動される人たち
のその気持ちが入っているんです。自分がフィルターとなってそういう気を入れていければいいなって
思うんですよ。

山岸
それからタングラの水平線、最近、書いてもらったときより、くっきりはっきり馴染んできている
んだよね。 

若山
ああ、仲良くなったんですね。お店とお店のスタッフとね。始めは、人でもそうだけど、ちょっと
距離置くじゃないですか。字だって同じですから。もちろん字の中にはいきなりピョーンと入って
いくのもあるけど、大抵はちょっと距離置いてそれから段々慣れてくるあれはすっごい長い山脈、
時々ちょんと出ている水平線にある山っていうか丘っていうかそういうイメージなんです。持って
いった筆で書けなくてね、タオルで書いたんですよ。キレイなタオルに墨つけて。

 
山岸

全然、違う話だけど若山さん前より男前になったよね、目力自体はそんなに変わんないんだけどね、ハンサムになっ
た(笑)

若山
山岸さんに会ってから名前を雄雲から象風に変えて自由になったっていうのはあるんです。肩書きも書家だから書道
の「道」の字をはずしてますし、自分はもうはずれの道でいいなっていう感じ (笑)

山岸
道を外して真っ直ぐ歩くっていうことは結局、己がしっかりしてないと歩けない訳ですよね。だから若山さんが自分
に課しているものは凄いなあと思っているんですよ。

若山
名前を変える前は、どこか気にしてないつもりでも、普通のお習字をやっている書道界の人を気にしている自分がい
たんですよ。その頃に書道の先生のお弟子さんにならないかって話があったんですけど、すし善の社長にたまたま会
って話をしたら、「始めはオレもこの寿司の世界ではちょっと外れていたんだ」って言うんです。でも今では自分の
弟子が寿司屋の2代目、3代目を育てているんだって。「だから思った通りやんなさい」って言ってくれて。その時
言われたことが本当に判ってきたのがここ3、4年くらいなんです。だから自分は書道界の人とも違う生き方でいい
んだなって思えるようになって。書道界の人と見比べることもないし、批判することも否定することもない。それぞ
れだからっていう風になってきてから多分、顔も変わってきたんじゃないかなって。 

--- 山岸さんも中華の料理人として始まりながら中華にとらわれない部分もありますが ---

  

山岸
垣根を越えてどうだこうだっていうことを意識する訳じゃなくて、自然な流れでいいと思っ
ているんですよね。ただね、匠の心っていうか北海道からモノマネじゃなくて新しいものを
造り出していきたいなとは思っています。料理は、足し算から始まって引き算になるって訳
じゃないんだけど、無駄が省けるような、無駄が分かるような時っていうのも来るしね、そ
の無駄って言葉が適切かどうか分からないけど。

若山
その無駄っていう部分と違うかもしれないですけど、前はひとつの字を表現するのに400枚、500枚書いていた
んです。でもここ1、2年は1枚1枚に対して気持ちで書かせてもらうようになったら10枚も書いたら息あがっち
ゃうんですよ。それから、今年は人の前で字を書くことをやっているんですけど、「書いて」っていう人が目の前に
来てメモ用紙渡されるまでなんていう字かわからない訳です。前だったら「これはどうやって書いたらいいの」って
聞いて書いてたんですけど、最近は「どうしてこれを書かせようと思うの」って聞いて、相手の手を触らせてもらっ
て、その人の気の伝わってくるままに書くんです。でも何もない人もいるんです。何の気も伝わってこない人。前は
とにかくこの人のために何か出さなきゃって書いていたんですけど、ここーヶ月くらい前からその場合は無い様に書
いた方がいいんだなってわかってきたんです。例えば、自分が全然興味無い話とかガーって言われると疲れるでしょ
だから、相手が若山にこうやって書いてっていうものが無いんであれば、こうやって書いたぞっていう押し付けは相
手に対して失礼だし疲れることをさせてるなって思うので、無なら無というのは書くのがいいんだなって。

--- ものを造る者同士、お互いに刺激を受ける部分はありますか ---

山岸
若山さんにこういうのどうだろうって字のアイデアみたいなことを言うことがあるんですよ。そしたら、それを若山
さんは、ちゃんとそれを若山さん流にして考えてくれるんですけど、それって凄い嬉しくて、存在意識して自分も頑
張ろうって気持ちに繋がりますね。 

若山
そうゆう時って話を聞いている途中からもう、どうしようかって頭の中で字を造っているんですよ。いい刺激を与え
てもらっています。 

山岸
若山さんは面白い話があって、腐った墨で字を書いてみたっていうことがあるらしいのね。そしたら、自分の想像を
超えて飛び跳ねるみたいにね、分離していくからブォーってこう字が勝手に走っていくんだって。筆で書いたところ
から更に進化してこう墨が飛び散っていくんだってさ。それって料理でもあることで、オレも好奇心旺盛だから、変
わったものに対しても、この食材は駄目だっていうんじゃなくてこいつでどうゆう料理を作っていこうかなとか向き
合うじゃない。そして、そっからまた新しいものが生まれることがあるから、近い部分を感じるんだよね。 

若山
山岸さん料理作っているとき、楽しいですよね。オレも字書いている時楽しいんですよ。やっぱり楽しくないと駄目
だってことですね。

山岸
あせってつくると駄目なんですよ。楽しんで、いい環境でいい心をもってやらないと出ちゃう。

 

取材:中国上海料理 kakazan(中央区南4西4 ロビンソン札幌7F)
撮影協力:あんかけ焼そば専門店 大鬧(中央区南4西4 ロビンソン札幌B2F)
遊食民族系料理 TANGLHA(中央区南1西3 パルコ札幌8F)
銘酒の裕多加(北区北25条西15丁目4−13)

データ提供
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